名古屋高等裁判所 昭和47年(ネ)285号 判決 1973年4月26日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「(一)原判決を取消す。(二)被控訴人の請求を棄却する。(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、採用および認否は、控訴代理人において、「被控訴人は、水野善兵衛との間の本件土地賃貸借の合意解除をもつて控訴会社に対抗できると主張するが、右合意解除が成立するに当つては被控訴人に信義誠実に欠けるところがあつたものである。すなわち、当時水野善兵衛が脳軟化症を患つていたので、調停の相手方として、控訴会社の当時の居住者を入れることは、事案が複雑化し、調停不能に陥るおそれがあつたが、被控訴人は、それを避けるため、控訴会社が本件建物において営業していることを熟知しながら、あえて水野善兵衛一人を相手方として調停の申立をなし、合意解除を成立させたものである。このように、本件賃貸借の合意解除は地主である被控訴人の信義誠実に反する態度に基づくものであるから、これをもつて控訴会社に対抗できる特別の事情があるとはいいえないものである。」と述べ、乙第六号証を提出し、当審証人桑原正、同広田多津美の各証言および当審における控訴会社代表者本人尋問の結果を援用し、甲第三号証の三が控訴人において乙第三号証の一の写として被控訴人に対し交付したものであることを認め、被控訴代理人において、甲第三号証の三を提出したほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決四枚目裏一一行目の「被告代表者本人」の次に「(第一回、第二回)」を挿入する。)。
理由
一、当裁判所も被控訴人の請求は正当としてこれを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由に説示するところと同一であるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目裏四行目の「被告」の次に「代表者」を、括弧内の「但し」の前に「第一、二回、」を、同六枚目表七行目の「本人尋問の結果」の次に「(第一、二回)」をそれぞれ挿入し、同表三行目、四行目の各「代表者」を削る。)。
(一) 控訴人の当審で新たに主張するところは、必ずしも明瞭でないが、被控訴人主張の本件土地賃貸借解除の調停成立当時、被控訴人が控訴会社の設立されたことを知らなかつたことは前(原判決)認定のとおりであり、また当時水野善兵衛が脳軟化症に罹病していたことを認めるに足る証拠はないから、そのことを理由に右調停につき被控訴人に信義誠実に反する点があり、したがつて控訴人は右調停による本件土地賃貸借の解除を控訴会社に対抗できない旨の右控訴人の主張はその前提を欠くものであつて採用に値しない。
(二) 当審証人桑原正、同広田多津美の各証言および当審における控訴会社代表者本人尋問の結果中、前(原判決)認定に反する部分(昭和二七年頃から本件建物表ガラス戸に控訴会社名が表示されていた旨の各供述を含む)は、右尋問の結果により昭和三二年以降に撮影したと認められる甲第三号証の三と乙第三号証の一とを対照するとき、両者は明らかに同一機会に撮影したものであることが肯認できることおよび原審における被控訴本人尋問の結果(第一、二回)に照らし到底信用できず、他に前認定を覆えすに足る証拠はない。
二、以上のとおり叙上と趣旨を同じくする原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。